人気ブログランキング | 話題のタグを見る

NPO法人 日中健康科学会


by jchs
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

講演要旨 鍼灸の臨床における中医学的診断技術の応用


講演要旨

    陸 小左教授 天津中医薬大学中医薬工程学院 学院長

 本講演は、鍼灸による病気の予防・治療、そして鍼灸における治療効果の評価という3つの面から、中医診断学と鍼灸の臨床との関係を論じる。まず体質の弁別による鍼灸の未病治という方法論を提示する。また、頭痛の診療を取り上げて、鍼灸の臨床における弁病・弁証と症状の弁別との統合的診断の有用性を紹介する。その上、客観的な検査より鍼灸の治療効果を判断する最近の試みを例挙してみる。

 中医学で言う体質とは、形態構造・心身状態ならびに疾病に対する反応などを含めた割りと安定でトータル的な生体の特徴を指している。生理学的な側面から、組織器官などの機能代謝と調節における個体差に表しているが、病理学的な側面では、生体の特定した環境に対する適応不良又は特定な病因に対する感受性の過敏、或いは特定な疾患に罹りやすい傾向性や発症してからの転帰の傾向性などに表すものである。

 「未病治」の概念は、『黄帝内経』の時代から登場して既に2千年以上の歴史を持っている。命を惜しみ、養生を重視し、病気を未然から防ぐ重要性を強調する「未病治」という理念は、中医学の理論的基盤の中に置かれており、また中医学的治療の崇高な目標として取り上げられている。この体質の弁別とそれに基づいた治療調節は、未病治における重要な方法と手段であり、鍼灸治療も体質調節にとって重要な役割を担っている主な方法の1つである。

 2009年4月、中国中医薬学会から《中医体質分類と判定》という基準を公表した。当該基準は、中国における初めての中医学的体質の研究と応用を指導して規格化したガイドラインである。中には、体質を平和質・気虚質・陽虚質・陰虚質・痰湿質・湿熱質・血瘀質・気憂質と特秉質との9種類に分類されている。筆者はそれに基づき、9種類の体質による鍼灸治療の取穴・手技に関するプランを創り出して応用している。

 また、中国では最近、弁病・弁証ならびに症状の弁別を統合するといった診断方法に関する研究は、中医学における脚光を浴びる重点的分野となっている。これは鍼灸の臨床にとっても重要な意義を持つ。ここに頭痛の診療を例とし、頭痛の部位による診断、痛みの特徴による診断、客観的な舌診による診断、主証と輔証との統合による診断など実用性の高い方法を説明する。その上、これらの診断を踏まえた基礎穴・弁証選穴・随証選穴ならびに部位別の加減穴という4つの治療選穴法を提示する。

 鍼灸治療効果における評価は多要因・多方面・多指標を構成する複雑なシステムである。もしこの評価システムが主観的要因の影響に左右されると、評価における一致性と科学性も保証できなくなる。治療効果の評価における目的は、治療効果を根拠とした治療技術に対する継続的評価によって、これから特定の患者および疾患に対してベストな治療法を提供するためである。また、この臨床効果に対する評価を通して、鍼灸医療者にとっても1つ積極的・支援的な環境の創り出しにも役立つと思われる。本文は鍼灸治療の効果を評価する場合に主観的指標と客観的指標との統合、定量的指標と定性的指標との統合、指標の客観化と規格化との統合、構成指標と割合指標との統合という4つの統合を唱え、鍼灸治療効果の評価は全体から、患者の主観的と客観的な所見に基づき、判断思考の一致性を保証する前提のもとで、多指標による総合的評価システムを構成し、様々なノイズを除外して真実・有効かつ便利な新型の評価方法を作り出すことに期している。

 中医学の診断技術は臨床治療のために応用するものである。患者の病態を正確な診断を下り、臨床効果に対して的確な評価を行うのは、医療従事者にとって最も合理的な治療方策の立案には役立つ。このため、中医診断学の技術は、鍼灸の臨床にとって非常に重要だと思われる。
by jchs | 2010-03-09 21:04 | 交流空間