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NPO法人 日中健康科学会


by jchs
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百合と百合病の診療について


 百合病とは、百合のある処方で治療できる病気であるということより、病名が得たらしい。今日から見れば、抑うつ、摂食障害などを特徴とする神経症の類いに属していると思われる。

 百合病に関する記載を言えば、『金匱要略・百合狐惑陰陽毒病脉證并治第三』の内容がまず取り上げられる。

論曰.百合病者.百脉一宗.悉致其病也.意欲食.復不能食.常黙黙.欲臥不能臥.欲行不能行.欲飮食或有美時.或有不用聞食臭時.如寒無寒.如熱無熱.口苦.小便赤.諸藥不能治.得藥則劇吐利.如有神靈者.身形如和.其脉微數.毎溺時頭痛者.六十日乃愈.若溺時頭不痛淅然者.四十日愈.若溺快然.但頭眩者.二十日愈.其證或未病而預見.或病四五日而出.或病二十日.或一月微見者.各隨證治之.


百合病.發汗後者.百合知母湯主之.
 〔百合知母湯〕方
百合 七枚, 知母 三両

百合病下之後,滑石代赭石湯主之.
 〔滑石代赭石湯〕方
 百合 七枚 滑石 三両 代赭石 如弾丸大一枚

百合病吐之後,用後方主之.
 百合 七枚 鶏子黄 一枚

百合病不経吐下発汗,病形如初者,百合地黄湯主之.
 〔百合地黄湯〕方
 百合 七枚 地黄 一升

百合病一月不解,変成渇者,百合洗方主之.
 〔百合洗〕方
 右以百合一升,以水一斗漬之一宿,以洗身,洗已,食煮餅,勿以塩豉也.

百合病渇不差者,栝楼牡蛎散主之.
 〔栝楼牡蛎散〕方
 栝楼根 牡蛎 等分

百合病変発熱者,百合滑石散主之.
 〔百合滑石散〕方
 百合 一両 滑石 三両

 以上は原文であるが、御覧の通り、百合病の治療において、百合根を含有している処方が終始に応用されている。

 現在八百屋さんから野菜として入手できる百合は、中医学からみれば、それは薬食同源で、滋陰潤燥・清心安神のなどの薬効を持っており、心身両面とも関わる心陰不足による心神不安の病態に対応できる良薬である。

 実は、中医学の診療は昔から、いつも心身の両面を共に重視しているのである。同じ『金匱要略』において、婦人雑病の診療においては、今日では咽頭異常感症と呼ばれ、不安神経症とよく繋げている「梅核気」、ならびに躁うつ病や更年期障害の一部に見られる「臓燥病」に対する治療も大変有名的である。半夏厚朴湯と甘麦大棗湯という関連処方も今日まで活用されており、日本では保険診療の適用薬剤である。

婦人咽中如有炙臠,半夏厚朴湯主之.
 〔半夏厚朴湯〕方
  半夏 一升 厚朴 三両 茯苓 四両 生姜 五両 乾蘇葉 二両

 婦人臓燥,喜悲傷欲哭,象如神霊所作,数欠伸,甘麦大棗湯主之.
 〔甘麦大棗湯〕方
  甘草 三両 小麦 一升 大棗 十枚

 どうでしょう? 漢文の原書内容は簡潔でしょう。
 

附:百合病に関する医話

 「黄河医話」 劉茂林 より

死者の多く出た「勃海二号」という事件が起きた時、邱さんの船員とした夫が不運で遭難した。

邱さんは現場に着くと悲しみの余り地に伏して泣いた。その後、昼にも食事をとらず、夜にも寝られず、一日中に話しもなくなっている。寝たり起きたり、ふらふらしていたが,近頃は喉が渇いても飲むことが出来ず、体が冷えるのに衣服を着ると脱ぎたくなり、食べたいと思っても食べられなくなり、今まで既に半月となった。

 私が診たところ、表情はボーとして精神は恍惚で、寡黙にじっと黙りを守っている。顔色は白いが両頬は紅潮しており、唇舌には小瘡が出来ている。舌は赤く乾いていて、脈は弦細で微数。

「お具合はどうでしょうか?」と尋ねたら,目眩・心悸・耳鳴・口苦・咽干・尿少黄赤・時々自汗など,と患者本人がようやく答えてくれた。

「娘の病気は何でしょうか?」とその母が傍で心配で尋ねてきた.

「これは<金匱要略>で言われた百合病ですよ」。

その父が更に「どうしてこうなったのでしょうか?」と尋ねてきた。

「<医宗金鑑>では‘傷寒大病の後、余熱が取れないで百脈が緩和しなかったり、或いは平素からくよくよ悩みが多く気持ちが晴れなかったり、たまたま仰天でビックリする事があり、心身共に病んでこのようになる’と言っています。この症状は心の傷と憂鬱が過ぎて化火となり、体内の陰血も知らないうちに損耗した結果です。」

 心は血脈を主り、肺は百脈を統合する。陰虚内熱の状態で熱が血中に伏するので百脈が全て病むのです。このようにして心肺の陰虚内熱が百合病に変わるのです。

 心が血養を失すると神明が守られなくて心悸・恍惚となり、自主的な衣食住の生活が出来なくなります。血虚すれば顔色が失せ、頭暈します。両頬の紅潮・口苦・咽干・時々の自汗・舌は赤く乾いて,唇舌には小瘡が出来、脈は弦細で微数・尿少黄赤などは,みな陰虚内熱のためです。

 病気が長引いて癒えなければ、心肺の陰虚から肝腎の精血不足となるので,目眩・耳鳴などが起こります。

 そいて,上記の分析に基づき,私は次のように治療を考えました。

処方:北沙参・生百合・生地・山梔子・麦門冬・知母・川楝子・白茅根

これは百合知母湯+一貫煎加減で、清心養肺・滋補肝腎が目的です。

 その時,随診した助手が私に質問しました。

「百合病といえば百合地黄湯ですが、先生はどうしてこれを使われるのですか?」

私は次の様に説明しました。

「時々自汗があるからです。<金匱要略>には‘百合病で発汗後の者は百合知母湯が之を主る’とあります。一貫煎を合方したのは、病気が‘子が母の気を盗む’と心病が肝に及ぶし、‘母が子を虚せしめる’と肺の病が腎に及ぶことになります。だから心肺の陰虚が長引けばきっと肝腎の精血が不足するだろうから,病機に合わせて一貫煎を合方したのです。」

 上方を9剤連服すると精神・言語・飲食は共に好転し、脈もまた前よりも緩和になりました。舌の上には津液が生じ、唇舌の瘡瘍も治りました。ただ頭暈・少眠・自汗はまだあり、又しばしばため息をつき、悲しみの泣き声をあげます。

 そこで<金匱要略>の、婦人臓躁するとしばしば悲しみ泣き声をあげる・・・・・甘麦大棗湯が之を主る、と言うのに習い、前方から-白茅根+浮小麦・大棗・白芍・炙甘草として続けさせました。
 
 方中の浮小麦は心陰を養い汗を止めるのに良いし、白芍は川楝子と合わさって疎肝養肝の力を増強します。

 これを12剤連服して諸症は悉く癒えました。後は毎日朝晩、天王補心丹を1丸づつ飲ませるようにと言っておきました。

筆者は臨床で陰虚内熱の病機の者に会うと弁証論治の基礎として,上に述べた3方を主として、適当に清骨散を配合して応用して,これまでかなりの効果を得ました。
by jchs | 2008-03-15 16:48 | 中医学習