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NPO法人 日中健康科学会


by jchs
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糖尿病の中医学的診療の概略


 糖尿病という疾患は、古くから知られている疾患で、昔から「消渇(ショウカチ)」という臨床像がそれを現していると考えられてきた。しかしながら、消渇という臨床像は、糖尿病が進行した状態であり、現代の糖尿病はほとんど自覚症状もなく、健康診断で始めて発見される患者も多く、この段階での病態を分析し、進行を防ぐ治療法が必要とされている。

 糖尿病は血液中の血糖を調節するインスリンという膵臓からのホルモンが足りなくなったり、働かなくなったりするために起こる。そのために、体にうまく利用されない糖分が血液中にたくさん溢れて,高血糖症を引き起こすわけである。それは長く続ければ、血管を傷めたり神経の働きに影響を与えて,多彩な合併症を引き起こすことで大きな障害となる。


糖尿病のタイプ


 糖尿病には以下の2種類のタイプがある。
 インスリン依存型(1型糖尿病):インスリンがつくれなくなるタイプ。
 インスリン非依存型(2型糖尿病):食べ過ぎ・肥満・運動不足・ストレス等が続いてインスリンがうまく働かなくなるタイプ。

 成人後に発症する糖尿病のほとんどは,インスリン非依存型であるが、血糖値が高いだけで、自覚症状もほとんど無く、血糖の高い状態が長く続いた後に始めて自覚症状が出てくる。自覚症状の無い間も血管や神経の障害はすでに始まっており、自覚症状が出てきてからあわてて治療をしても,既に手遅れであることが多い。


中医学での糖尿病の理解

 のどが渇いてたくさん飲む多飲、小便が多量に出る多尿、たくさん食べる多食、それなのに痩せてくる、といった症状を“三多一少”といっていわゆる「消渇」と呼べれる病態が昔から観察されている。これが糖尿病で、血糖値が非常に高くなった症状と似ているので、おそらく糖尿病の患者を診ていたものと考えられる。こうした症状は、過剰な食事やストレス等で体に熱がこもってしまい、その熱が体の津液を消耗して、津液不足の病態が生じていると考えることができる。

 現代では、上記のような重症になる糖尿病はまれで、自覚症状の少ないまま長期間に及び合併症に至るものがほとんどなので、「消渇」の考え方だけで理解しようとするのは不十分である。

 糖尿病の本態は、吸収された糖分を末端臓腑において有効に利用できないことにある。そのため糖が血中に大量に留まり、血液粘度を変化させて微小循環を阻害する。この現象を中医学からみると、糖は脾によって水穀から化生される水穀の“清”(精微,エッセンス)である。糖尿病では、この“清”が末端で有効に利用されなく、最終的に機能していないゆえんである。つまり、水穀の化生が充分に行われていないといえる。この化生されきれない精微は、生体にとっては不要なものであり、“濁気”(無用な老廃物)を意味している。すなわち、高血糖の状態における糖は“濁”(邪気)であり、糖尿病は“濁”邪の停滞と関わっているのである。末梢血管障害はすなわちこの邪実の状態を引き起こした“お血”や“湿濁”の停滞によるものだと考えられる。

 また、本来、“気”になるべきものが邪に変わるのであるから、当然“気”は不足し、“気虚”の症状を呈し、衛気虚になれば易感染、営気に及べば皮膚病巣を起こしやすくなるわけである。

Ⅰ.症状がなく血糖値異常高値だけの場合

  >[病因病機]

  「症状がない」とは、ここに糖尿病と直接に関連する症状がないことを指している。血糖値異常高値だけで,これは耐糖能異常者、いわゆる糖尿病の予備軍であったり、あるいは初期段階の軽症糖尿病患者に該当している。伝統的中医学理論においては、膵臓の概念がなく、その膵臓の内分泌と外分泌に関する機能は、中医臓腑理論には主に脾臓の運化・昇清機能と、肝臓の疏泄機能に分担され、腎陽の気化機能とも関連しているとみられる。このため、関連した症状の乏しく、血糖値異常高値だけを現れてきた患者には,よく脾胃の気虚湿滞、または湿熱中阻、脾虚肝鬱、脾腎陽虚の病因病機と関連づけで,弁証分析にする。

  >[弁証論治]

 1.脾虚湿滞

  [主証]体力不足、疲れやすい、頭重感か体が重だるい、顔の血色とつやが悪い、食欲減退、胃腸が弱い、腹満、下痢または便秘しやすい、胖大・歯痕舌,白膩苔。
  [治則]健脾化湿
  [方剤]六君子湯

 2.湿熱中阻

  [主証]過食や大酒、または煙草の嗜好、顔面紅潮、吹き出物が多い、発汗しやすい、口粘・口苦・口臭、体臭が強い、頭重感か体が重だるい、疲れやすい、腹満、下痢あるいは便秘ぎみ、胖大・歯痕舌で舌色は紅,黄膩苔。
  [治則]清利湿熱・健脾和胃
  [方剤]軽症:半夏瀉心湯
          便秘を挟む重症:三黄瀉心湯または大柴胡湯

 3.脾虚肝鬱
  [主証]疲れやすい、頭重感か体が重だるい、胃腸が弱い、鬱気分またはイライラする、腹満、食欲減退、下痢または便秘しやすい、胖大・歯痕舌,白苔。
  [治則]健脾疏肝
  [方剤]抑肝散加陳皮半夏、または加味逍遥散

 4.脾腎陽虚
  [主証]疲れやすい、めまい、頭重感か体が重だるい、胃腸が弱い、頻尿、手足の冷え、足腰が弱い、下痢ぎみ、浮腫ぎみ、胖大・歯痕舌、舌色が淡白、白膩苔。
  [治則]温補脾腎・化気温陽
  [方剤]桂枝加苓朮附湯

Ⅱ.消渇病

[病因病機]


 主に飲食不節、情志失調または腎精虚損によって、肺胃津傷、陰虚火旺を誘起し、消渇に導くのである。

1.飲食不節
 油っこいもの、甘いもの、辛いものの多食または飲酒によって脾胃が障害され運化失調を来し湿濁が停滞する。また、長く停滞していると熱を生み湿熱に変わる。湿熱により津液の代謝が損なわれ、津液不足となる。時には湿熱と津液不足が同時に存在することもある。


 2.情志失調
 怒り、不安などのストレスが原因で肝気が鬱結する。鬱した気は長く停滞すると熱を生じる。生じた熱が陰分を消耗させる。

 3.腎精虚損 過労、慢性疾患などにより腎精を消耗する。腎精が消耗すると、腎陰は腎陽を抑制できずに虚火が生じる。

 [弁証論治]
 1.上消

 [主証]口渇、多飲、舌紅苔薄黄
 [治則]清熱潤肺・生津止渇
 [方剤]白虎加人参湯合西洋人参烏梅

 2.中消
 [主証]消穀善飢、多食消痩、便秘、舌苔黄燥
 [治則]清胃瀉火・生津潤燥
 [方剤]麦門冬湯合調胃承気湯

 3.下消
 [主証]頻尿、多尿、尿濁、口渇、腰膝がだるい、耳鳴り、遺精、舌紅少苔
 [治則]滋補肺腎
 [方剤]麦味地黄丸
      滋陰降火:知柏地黄丸
      温補腎陽:八味地黄丸合西洋人参鹿角
    温腎利水:牛車腎気丸

Ⅲ.合併症

1.手足のしびれ
[病因病機]血お阻絡
[主証]手足のしびれ,口唇と舌色の紫暗、舌面の斑または点,舌下絡脈の怒張
[治則]益気活血・化通絡
[方剤]補中益気湯合冠脈通塞丸

2.白内障
[病因病機]肝腎陰虚,目失濡養
[主証]目のかすみ,視力減退,瞳孔の白濁化
[治則]補益肝腎・明目
[方剤]杞菊地黄丸

3.皮膚疾患
糖尿病の中医学的診療の概略_b0123760_14342484.jpg
(おでき)
[病因病機]湿濁・血阻絡,肌膚湿熱蘊蓄
[主証]湿疹またはニキビ、吹き出物、或いは褥瘡、壊疽など。局所の充血・腫脹・痛痒い。
[治則]清熱解毒・養血活血・燥湿泄濁
[方剤]清熱解毒・養血活血:清上防風湯合四物湯,または温清飲
清熱解毒・燥湿泄濁:竜胆瀉肝湯
by jchs | 2008-03-15 14:00 | 中医学習