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NPO法人 日中健康科学会


by jchs
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中国最新の国民栄養健康調査


中国では,これまで全国範囲で行われた栄養状況に関する調査は,4回(1959,1982,1992,2002年)実施されました。また,栄養およびライフスタイルと密接に関わる高血圧症・糖尿病の発症状況に対しても,数回の調査が行われたことがあります。

2002年8-12月,中国衛生部(厚生省)・科学技術部・国家統計局が連携し合い, 全国をカバーした第4回国民栄養と健康状況に関する調査を施しました。この世界衛生機関(WHO)および国連児童基金会からの協力も得た調査には,国内各地の経済発達レベルの違いを踏まえて,中国全土を大都市・中小都市および1~4類の農村地域という6種類の地域を分画し,132の調査地(県または区)において無作為で計71971世帯, 243479人(補正調査を含めて総計272023人)をサンプル対象者として抽出し,統一基準で問診アンケート・理学的検診・実験的検査・食生活アンケートを実施しました。中に,血圧・血中脂質・ヘモグロビン・血糖値・血漿ビタミンAの水準値測定が含まれました。

中国では栄養と高血圧症・糖尿病・高脂血症・肥満など生活習慣病の状況に対する初めての全国規模の総合的調査として,この2002年の調査は画期的だと言えます。

2004年10月, 前記の調査結果は中国政府に公表されました。それによれば,1992年以来の最近10年間,中国都市と農村部の住民達の食生活と栄養状況は,経済の持続的成長に伴い,著しく改善されてきたことが分かります。 

1992年の都市と農村部には,1人にあたり平均毎日210gと69gの動物性食物の消費量でしたが,2002年の調査ではそれぞれ248gと126gまで上昇してきました。各地住民達のタンパク質とカロリーの摂取は,大体満足的レベルに達しています。そして,児童と青少年の成長発育水準が逐次に向上し,新生児の出生時平均体重は3309gとなり,出生時の低体重率は3.6%に下がり,発達国の水準となっています。また,児童の栄養不良の罹患率が大幅に低下し,5歳以下の児童成長遅緩率は14.3%ですが,1992年より55%減となっています。他には,成人の貧血症の有症率(平均15.2%)も以前より下がっている,ということです。

しかし, この最新調査より,中国国民の栄養と健康には依然として多くの問題点を抱えていると,はっきり読み取れます。

とりわけ,都市部の住民達が肉類・油脂の消費過多と主食とした穀類の消費低下,都市と農村を問わずに乳酪類・豆類食品および鉄分・カリシウム・ビタミンAなど微量元素の摂取不足が普遍的な存在として目立っています。特にカリシウムの全国平均的摂取量は僅か391mgですが,これはWHOに薦められた摂取量の41%しか満足できないです。

こういうアンバランスな食膳の構成と関わり,中国では栄養偏在と栄養欠乏性疾患は現在多くみられています。とりわけ高血圧症と高脂血症の有病率はそれぞれ18.8%と18.6%に達しており, 両者の患者数は共に1.6億人を超えています。また,成人の超体重率 は22.8%(2億人),肥満率は7.1%(6000万人以上)を占めています。1992年の調査と比べれば,成人の過体重率が39%ぐらい上がり, 肥満率が97%も上昇しています。そして, 成人の糖尿病の有病率は平均2.6%,患者数は2000万人以上,糖尿病の予備軍は1.9%,推定2000万人近くもいるのです。糖尿病とその予備軍の発症率は都市部が高く,地域経済の発達レベルと相まって関連しています。

附:中国地域別の糖尿病有病率比較(2002年調査資料より)

  本調査より,高カロリー・高脂肪分の飲食と運動不足は超体重・肥満・糖尿病・高脂血症の発生と密切に関与している,塩分の多い食習慣は高血圧症のハイリスク,飲酒過多は高血圧症・高脂血症と大いに関連しているのを,改めて提示してくれました。

特に脂肪の摂取過多で体力活動が少ない人は,前記の生活習慣病に襲われやすいのも明らかとされています。

さらに,中国では高血圧症を罹った本人でも分かっているのはただ30.2%,治療を受けている患者は24.7%,血圧がコントロールされているのは6.1%に過ぎない現状です。 

一方, 国民の貧血症の平均有病率は15.2%で,以前の調査より改善がみられていますが,2 歳以内の嬰幼児,60歳以上老人と成育年齢層女性達の貧血症の有病率は,実はまだそれぞれに24.2%,21.5%,20.6%という高いレベルです。

また,3~12歳の児童達のビタミンA欠乏率は9.3%ですが,中に都市部では3.0%,農村部では11.2%です。更に, ビタミンA欠乏の境界値に立つ人は45.1%であり,中に都市部は29.0%,農村部は49.6%,相変わらず看過できる状況ではないです。

特に,ビタミンAやカリシウムなど栄養素の欠乏が多いですが,食膳と日常生活で何を,どうしたら改善できるかという栄養・保健関連の知識教育と普及が,まだ大きなネックです。

  最近70%以上の中国人が半健康状態にあるとみられているため,中国政府と医療・栄養・保健業界は,食育を含めた全国民に対する健康教育と健康指導の重要性を痛感し,改めて医学・医療のワークを遥かに超えた健康科学の視点で全国民の衛生・保健と人口の素質ならびに経済および社会の健全的発展をトータル的に考慮しています。いまは,栄養と健康に関連する産業の調整も,官民の間で急ピッチで展開されています。

栄養状態と疾病種類の変化に応じて,政府は1997年に『中国の栄養改善に関する行動計画』を頒布しましたが,今度の調査を踏まえて, 2005年1月中国衛生部より『全国健康教育と健康促進に関する仕事の計画綱要』を公表しました。また,国民の栄養に関するはじめての『国民栄養法』という条例もまもなく頒布する予定で,『栄養仕事条令』『栄養師法』などの制定も着手されているそうです。 

2005年10月,中国労働と社会保障部より,公共栄養師・健康管理師・芳香保健師・ペット医師・医療救急員・緊急救助員などを新しい資格要りの職業として正式に認めて公表しました。そろそろ公表されそうな『国民栄養法』の内容には,これからの各幼稚園・学校・病院と地域社会には,すべて栄養師を配備しなければなりません。また,今後保健食品のセールス担当者も,栄養師ではなければできないと明文で規定されるそうです。

ただし,中国国内では現在正規的な栄養師の資格を持っているスペシャリストはまだ4000人にも足らず,400万人の専門的人材チームの早期養成がニーズとなっています。健康管理師・芳香保健師・医療救急員・緊急救助員などの養成も類似している状況です。

  上記の調査と現状に基づき, 中国では栄養・保健と関連した専門的人材の養成はこれから大きな市場となりますし,栄養・保健産業の全体も大きな変化が必至だと予感できます。


----(2006年3月『健康産業新聞』に掲載した記事より一部改編 戴 昭宇)
by jchs | 2008-03-15 17:53 | 食品栄養